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3618.山の特急・半世紀 その11 「グレードアップあさま」登場

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前回述べたとおり、「グレードアップあずさ」は好評を得ました。
そこで、もうひとつの「山の特急」である「あさま」にもグレードアップを…と望む声が出るのも無理からぬことですが、JR東日本は、当初「あさま」用189系のグレードアップ改造には消極的でした。
その理由は、「あずさ」とは異なり、将来的に新幹線の開業が予定されていたこと。そのため、グレードアップ改造を施しても「あさま」で使用できる期間が短いこと、それ故に投資に見合った収益が得られないことなどでした。
しかし、流石に189系の国鉄時代の内装は陳腐化が著しくなり、新幹線開業まで待てないということで、「あさま」用189系編成に関しても、グレードアップ改造が施されることになりました。

「グレードアップあさま」の改造メニューは以下のとおり。
項目は前回の「グレードアップあずさ」と同じですが、( )内の記載は「あずさ」との相違点です。
なお、「グレードアップあずさ」は9連だったのに対し、「グレードアップあさま」は11連となっています。

① 指定席車は側窓を拡大、座席も大型のリクライニングシートに取り換え、シートピッチも拡大。同時に座席取付部分の床を嵩上げ(ただし嵩上げ幅は『あずさ』用よりも縮小)。
② 自由席車は座席をそのままとし、指定席車に準じた色彩のモケットに張り替え。
③ 日によって自由席にも指定席にもなる車両については、側窓・座席とも指定席車仕様とする(シートピッチも自由席仕様)。
④ グリーン車は横4列から横3列に変更して座席を大型化、側窓も拡大。指定席車同様に座席取付部分を嵩上げ(デッキと客室の間の仕切り扉は移設)。
⑤ 指定席車・グリーン車は、100系新幹線と同様の構造の読書灯つき荷棚に変更。
⑥ 指定席車・グリーン車は、デッキとの間の仕切扉を自動扉に変更し、同時に車内案内表示器を設置。
⑦ グリーン車に公衆電話機を設置(業務用室を電話室に充てる)。
⑧ 外装は国鉄標準特急カラーから変更(地色は白、窓部分と車体裾部を濃緑、窓下をグレーに)。

ご覧いただくとお分かりのとおり、メニューは概ね「グレードアップあずさ」と同一ですが、細部が異なります。①の点はそれほど大きな変更ではありませんし②も同じですが、シートピッチ可変機構は導入しませんでした(③)。そのため、この車両が自由席として運用されるときには、この車両は「乗り得」とされる車両となりました。
④⑦は、グリーン車の居住性のさらなる向上を狙ったものといえます。電話機の設置は「あずさ」と同じですが、業務用室を転用した密閉型の「電話室」を設けることで、さらに客室の静粛性がアップしています。ただこの公衆電話、山岳区間では通話ができなかったはずですが、どれだけ役立ったのかは今となっては疑問です。
外装のカラーリング変更(⑧)は、当時のJR各社が派手なカラーリングの車両を多数世に出している中にあっては、その逆をいくシックな装いで注目されました。カラーリングの変更は、その車両を設計する際に色まで考えてデザインしていることから、得てして残念な結果に終わることが多いのですが、この「あさま」と「あずさ」の色に関しては、残念な結果どころか、鉄道愛好家や利用者、沿線住民からは、むしろ好ましく受け取られています。ただ、特急シンボルマークの撤去は残念でしたが…。

ともあれ、「グレードアップあさま」は平成2(1990)年7月から運用入りし、「あずさ」同様に限定運用がかけられ、「グレードアップ車で運転」などの注意書きが時刻表に記載されることで、一般の乗客にも運用列車が明らかにされています。
勿論、「あずさ」同様、「グレードアップあさま」は好評を得ました。

「グレードアップあさま」編成は、平成4(1992)年までに11連×7編成と1両(増結用グリーン車)が出揃い、上野-長野・直江津間を往来するようになりました。
同じ平成4年から、「あさま」に使用している189・489系を「グレードアップあさま」編成と統一することとし、順次カラーリングの変更が施されました。
ただし、こちらは「あずさ」のようにカラーリングの変更だけでは終わらず、189系に関しては指定席車を中心に座席の取り換えが行われ、一般編成でもグレードアップが施されています。これに対して、489系に関しては、カラーリングの変更が行われただけで、座席の取り換えは行われず、その点で189系編成とは内装での格差が生じてしまっています。
なお、この年の3月に実施されたダイヤ改正では、上野-金沢間で運転されていた「白山」往復のうち1往復が廃止され、「白山」は1往復のみの運転となっています。しかし、「白山」は1往復とはいえ「あさま」のパターンダイヤに組み込まれていたためか、「エル特急」の指定を外されることはありませんでした。もはやこのころになると、「エル特急」の冠・意義自体が曖昧になってきていたのかもしれず、そのことを如実に示す出来事ではなかったかと思われます。
翌平成5(1993)年3月の全国ダイヤ改正では、「白山」用の489系が「あさま」1往復に進出しています。この編成は金沢の所属で、ラウンジ&コンビニエンスカーを連結するなど(ただし『あさま』では非営業だった)、長距離用としてふさわしい設備となっていたため、この編成が充当される「あさま」は、「影の『グレードアップあさま』」というべき列車でもありました。なお、この改正では夜行の「能登」が14系客車から「白山」と共通の489系電車に置き換えられています。

このころの話題として、新宿発着の「あさま」も取り上げておきましょう。
「あずさ」のような始発駅の多様化の一環として、「あさま」にも新宿発着の列車が1往復出現しました。しかし毎日での運転ではなく、土日祝日や年末年始・GW・お盆など繁忙期を中心に運転される季節列車として運転されました。他にも臨時列車で新宿・横浜などの発着はありましたが、定期列車での運転はありませんでした。これは恐らく、どんなに始発駅を多様化しても必ず新宿駅を通るという「あずさ」とは異なり、「あさま」の場合は新宿発着にしてしまうと上野駅を通らなくなってしまうため、上野駅での乗車機会が減ってしまうためではなかったかと考えられます。

次回は、「あずさ」に現れた、スピードアップの救世主について取り上げます。

-その12に続く-

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