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Channel: さすらい館
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3470.ALTERNATIVE WINGS その6 新興航空会社の国際線~スカイマークの場合

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今回から、新しいキャリアの運行する(した・しようとした)国際線について取り上げたいと思います。
今回取り上げるのは、良くも悪くも「空の風雲児」として名を馳せたスカイマーク。

「45/47体制」が撤廃され、「空の規制緩和」が始まったのが昭和61(1986)年ですが、スカイマーク(当時はスカイマークエアラインズ。以下単に『スカイマーク』という)の設立は、それからちょうど10年後の平成8(1996)年。スカイマークは、規制緩和後の新規設立の航空会社の第一号でした。
スカイマークは、既存の航空会社とはありとあらゆる意味で一線を画していました。機内サービスを簡素化するなどして運航コストを抑え、普通運賃を他社の半額程度に抑える代わり、搭乗率を高くして利益を上げるという、「薄利多売」の方向性を打ち出しました。最初の機材はボーイング767の1機だけでしたが、それも自社所有ではなくリースの形態をとり、ここでもコストダウンが図られていました。
これらを見るとお分かりのとおり、スカイマークは現在のLCC(Low Cost Career=格安航空会社)に近い考え方を取っていました。しかしこれらも、その後他社が割引率の大きい運賃を設定するなどしたため、スカイマークのアドバンテージが失われ、搭乗率が低下してしまっています。
その他、客室乗務員(CA)の制服をミニスカートにする「ミニスカCA」などでも話題になり(というよりは物議をかもし)、「結構なことだ」「セクハラではないか」「非常時の対応に問題があるのでは」など、賛否両論を巻き起こしたこともあります。
このように、スカイマークは、良くも悪くも航空業界に様々な話題を提供してきた会社ではあります。

スカイマークの国際線は、A330-300とA380によって運航される予定でした。
スカイマークは、平成25(2013)年、手始めにエアバスA330-300を導入し、通常の普通席(エコノミークラス)よりもゆとりがある、「プレミアムエコノミー」相当の仕様の座席を搭載した「ゆとり仕様」の座席を備え、東京-福岡間で就航しました(実際の就航は平成26(2014)年から)。国内線で見ても、日本航空の「クラスJ」、旧日本エアシステムの「レインボーシート」に相当する座席でしたが、スカイマークは割増料金を徴収せず、通常運賃と同額の設定としていました。
このA330-300、世界的には数多く飛んでいるのですが、日本の航空会社で導入したのはスカイマークが初めてということで、趣味的な観点からもかなり注目されました。
しかし、このA330-300の運航は、後述するようにスカイマークそのものの経営が傾いたため、わずか1年で終了、機材も全て手放してしまっています。

前後しますが、スカイマークは平成22(2010)年、「巨人機」A380の導入をぶち上げました。目的は、国際線就航のため。それも、米国本土のニューヨークへの就航、さらには欧州(独ミュンヘン・仏パリなど)への路線展開を考えていたとのことです。
しかし、A380は日本航空も全日空も発注を見送った巨人機。勿論、その理由は図体が大きすぎるがゆえに離着陸が可能な空港や搭乗ゲートが限られたり、整備体制が大変だったりということもありますが、それよりも大きな理由は、そこまで大きな機材を導入して経費をペイできるだけの搭乗率を維持できるか不安があったこと(オールエコノミーなら約800席、複数クラスの国際線仕様なら500~600席台)。まして当時は、世界同時株安により大規模な景気後退が起こった時期でもあり(所謂リーマンショック)、そのための国際線需要減による搭乗率低下が、両社に二の足を踏ませた最大の理由です。
そのような状況だったにもかかわらず、新興のスカイマークがA380の導入をぶち上げたことには、同社の本気度を疑う声が多く上がったのも事実です。それも当然の話で、A380の導入そのものが、スカイマークという会社の「身の丈」を明らかに超える過大な投資であることが、誰の目にも明らかだったからです。
結局、A380の発注が会社の経営を圧迫したことは事実のようで、平成27(2015)年1月、同社は民事再生法の適用申請に至ってしまいました。

全日空はグアム線から。
日本エアシステムはソウル線から。
このように、短距離の国際線からスタートすればよかったと思うのは、ひとり管理人だけではないはずです。それがいきなり米国本土、しかもNYへの就航をぶち上げられては、当時の政財界、航空業界、航空趣味界のいずれにおいても、言葉は悪いですが「大風呂敷」と受け取った向きが大半ではないでしょうか。「小さなことからコツコツと」とは、お笑い芸人から政治家に転身したある人物の名言ですが、この名言を地で行くような展開を、全日空も日本エアシステムもしてきたはず(後者は途中で日本航空に吸収合併されてしまいましたが…)。その「小さなこと」を蔑ろにして、いきなり「大きなこと」を手掛けても、うまくいくわけがありません。
あるいは、A380導入・国際線就航をぶち上げた当時、既にスカイマークの経営悪化がかなりなレベルまで来ていて、それを打開するための、株価上昇・世間への宣伝という意味合いもあったのではないかと思われます。そのため、国際線就航、それもA380での米国本土への路線就航という、大きなアドバルーンを上げたのではないかと思わざるを得ません。
その他、スカイマークは、バンコク・シンガポール・ハワイといった中距離の国際線を運航することも予定していて、こちらの路線にはA330-300が充当される予定だったそうですが(A330-300を導入したのはそれが理由だった)、これも経営悪化に伴って同機を手放さざるを得なくなったため、事実上白紙になってしまいました。
これも今にして思うと、せっかくA330-300を導入したのですから、国内線で足慣らしなどと言わず、アジア・オセアニア・ハワイへの短中距離国際線に就航させればよかったのではないかと思われてなりません。同機は全席プレミアムエコノミー相当の仕様だったのですから、「全席プレミアムエコノミー仕様でエコノミー相当の運賃!」とでもして売り出せば、かなり高い搭乗率が期待できたのではないかと思われます。東京-福岡線は確かに国内線としてはドル箱ではあるのですが、そこで他社と張り合うよりも…というのは、素人考えでしょうか。

現在、スカイマークは民事再生法の適用を裁判所に申請し、経営再建の途上にあります。
スカイマークの迷走は、同社が良くも悪くも「ワンマン企業であったこと」に起因しているように思われます。そのために歯止めが利かなかった。ワンマン経営は意思決定のスピードが桁外れに速いというメリットもありますが、暴走したときに歯止めが利かないというデメリットもあります。
「空の風雲児」も結構なのですが、やはり「輸送の安全」という運輸業の本分を弁えた事業展開を期待したいものです。

次回は、同じニューカマーであるスターフライヤーのお話を。

-その7に続く-

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