「あさま」なきあとも依然として183・189系で運転されていた「あずさ」「かいじ」。
これには、以前にも触れたとおり、E351系の投入が少数で終わってしまったことも理由にありますが、E351系使用の「スーパーあずさ」と、183・189系使用のただの「あずさ」とではスピードと居住性に厳然たる差があること、また183・189系はグレードアップ改造を受けているとはいえ老朽化・陳腐化が顕著になってきたことから、置き換えが図られることになりました。
そこで登場したのが、E257系です。同系は平成13(2001)年、一部の「あずさ」に投入され、183・189系を置き換えておくことになりました。
E257系のスペックは以下のとおり。
① 編成内容は9連+2連(付属編成は新宿方に連結)。付属編成は、基本編成と連結する側には簡易運転台を装備。
② MT比率は基本5M4T、付属1M1T。
③ メカニックはIGBT-VVVF。
④ 制御伝送システムには、E231系で採用された列車情報管理システム「TIMS」を搭載。
⑤ パンタグラフ以外の重量機器を床下に搭載し低重心化、カーブの通過速度を向上。
⑥ 振子式は採用せず。
⑦ グリーン車は半室(定員28)、横4列。
⑧ 車体は白をベースに、竹田菱をイメージした市松模様のラッピング。
この車両で管理人が当時一番意外に思ったのは、振子式の採用が見送られたこと(⑥)。
同系が充当される「あずさ」「かいじ」は、高速バスとの熾烈な競争に晒されている系統であるにもかかわらず、何故だろうと思いましたが、今にして思えば、このころ既に振子式車両の導入例が減少してきていました。実際に、電車では平成11(1999)年にJR九州に導入された885系、気動車ではE257系の出現と同じ年にJR西日本に導入された187系が、今のところ最後の導入例となっています。
E257系に限らず、振子式車両の導入例が減少した理由は、スピードアップのメリットよりも、通常型車両よりも高額になり車両の保守点検にも手間がかかってイニシャルコスト・ランニングコストとも高くつくこと、軌道・路盤に与えるダメージが大きいことで路盤の保守のコストが増加すること、乗り心地の悪化というサービスレベルの低下といったデメリットが目立つようになったことです。そして、通常型車両であっても、低重心化や加減速性能の向上(⑤。特急型車両であっても通勤電車並みの高い加減速度を設定することにより、トップスピードに達するまでの時間を短くする)などでカバーできることも、理由として挙げられます。
その他メカニックは、E231系に範をとったTIMSを採用、消費電力量減少、メンテナンスの簡略化など、コスト削減に寄与しています(③④)。
編成構成を9+2の分割仕様としたのは、足の短い「かいじ」での運用と、大糸線直通を鑑みてのことです(①)。しかし付属の2連、新宿方の先頭車は非貫通の立派な顔なのですが、基本編成との連結面は簡易運転台とされ、必要最小限の装備しかない簡素な顔立ちとなりました。この簡易運転台は、松本駅構内での入換のために設けられたもので、本線上の走行は想定されていないそうですが、形式名はちゃんと「クモハ」となっています。
注目されたグリーン車ですが、半車になったのは驚きました(⑦)。183系「グレードアップあずさ」ではグリーン車を横3列にし、「あさま」の189系も追随しましたが、E351系から横4列に戻され、それをE257系が踏襲しています。しかもE257系の場合は、普通席との合造車。これには少なからぬ批判があったようです。
このころの「リバイバル企画」についても、言及しておきましょう。
平成14年の2月2日には、臨時列車「懐かしのあずさ2号」が183系で運転されています。これは、「2002年2月2日」という「2」並びの日であること、183系が「あずさ」運用から撤退間近であることから企画されたものです。183系のヘッドマークは昭和53(1978)年からイラスト入りになっていましたが、この曲が流行した昭和52(1977)年当時を忠実に再現すべく、文字だけのマークを用意、しかも号数を下り奇数・上り偶数の新幹線方式に移行して下り列車に偶数の号数を冠することができなくなった状況下、「懐かしのあずさ2号」と号数までを列車名にすることで、下りでも偶数の号数を冠するなど、JR東日本もそれなりに力を入れていました。しかも、新宿駅で挙行された出発式では「あずさ2号」を歌った狩人がテープカットを務めました。
しかし、出発時間だけは流石に「8時ちょうど」にするわけにはいかず、苦肉の策として8時02分発とし、本来の「8時ちょうど」の「スーパーあずさ3号」に雁行するダイヤで運行されました。
E257系は前述のとおり、平成13(2001)年から投入が始まり、翌14(2002)年7月には「中央ライナー」なども置き換え、同年12月のダイヤ改正では「あずさ」「かいじ」の全列車の運用を掌握しました。この改正で、183・189系は「あずさ」「かいじ」の定期運用から完全に撤退しています。183・189系からE257系に置き換えられたことの余波として、千葉発着の「あずさ」は、従来停車していた秋葉原には停車しなくなりました。これは、E257系が11連であるところ、秋葉原駅の総武緩行線ホームの有効長が10連相当分しかなかったことによるものです。それまでは千葉発着の「あずさ」については、183・189系の9連が充当されていました。
なお、183・189系は「あずさ」「かいじ」運用撤退後、一部の車両は廃車されましたが、状態の良い車両は他所に転属し、団体用・臨時用となっています。しかし勢力は大幅に縮小してしまいました。このころから、両系の勢力の縮小が顕著になっていきます。
なお、平成14年12月のダイヤ改正では、JR東日本の在来線特急から「エル特急」が消え、「あずさ」「かいじ」もその冠を外されています。もはや存在意義が曖昧になってしまった「エル特急」ですが、JR東日本管内では30年経って消えることになりました。
なお、平成14年12月のダイヤ改正では、JR東日本の在来線特急から「エル特急」が消え、「あずさ」「かいじ」もその冠を外されています。もはや存在意義が曖昧になってしまった「エル特急」ですが、JR東日本管内では30年経って消えることになりました。
昭和48(1973)年に幕張の0番代が「あずさ」運用に進出してから29年。
昭和50(1975)年に「あさま」と共通の189系に置き換えられてから27年。
昭和57(1982)年に「とき」運用を失った183系1000番代を受け入れ、「あさま」との共通運用を終えてからでも20年。
それだけの時を経て、183・189系は「あずさ」「かいじ」の運用から完全に撤退したことになります。そしてそれは、「あずさ」が国鉄時代から訣別したことを示すものです。
次回は、「あずさ」の華でもあった、大糸線乗り入れ列車の変遷について取り上げます。
-その16へ続く-