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VVVFインバーター車の歩み その11 近鉄の場合

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その10から続く


これまで見てきたとおり、昭和61(1986)年は、東急や新京成・国鉄(当時)でVVVFインバーター制御車が営業運転を開始し、しかも東急や新京成では量産を視野に入れた形式がデビューした記念すべき年です。また、今回取り上げる近鉄では、この年VVVF車の量産車の本格的な投入を開始しました。そういう意味では、この年はいわば「VVVF車元年」といってもよいのではないかと思います。


しかし、近鉄では、既に当時新京成や東急に2年も先んじて営業運転に投入された形式がありました。


それが、1500Vの通常鉄道路線で初めて営業運転に投入された、近鉄の1250系電車です(現在は1420系に改番されている)。

この車両は2両編成、1M1Tが1編成登場しています。M車には当時の世界最大の高耐圧であるGTOサイリスタを採用し、主電動機は160kwの出力を誇ります。これは、大阪線に介在する青山峠の登坂力を確保するためで、新青山トンネルにある22.8‰上り勾配では、均衡速度103km/hを誇っています。制動装置は回生ブレーキの他電磁直通ブレーキを装備し、急勾配に対応しています。また、加速度などの性能は従来車と揃えられ、従来車の界磁チョッパ車や抵抗制御車などと混結が可能となっています。

車体そのものは、界磁チョッパ車の1200系と同じ、裾の絞りのない角張った車体であり、パッと見だけでは1200系などと区別が付きません。ただし、一般車と区別できるポイントは、先頭部乗務員室扉の直後にあります。この場所には会社のロゴが入れられることが多いのですが、近鉄は、この場所に三相交流の波動(サインカーブ)を図案化した「VVVF」のロゴマークを取り付け、新世代の制御方式を採用した新世代の電車をアピールすることにしました。この「VVVF」のロゴマークは、近鉄VVVF車を象徴するものとして、後に登場した「シリーズ21」や「L/Cカー」以外、近鉄VVVF通勤車には必ず取り付けられています。ただし、1250系には運転室の直後には窓があったため、ロゴマークはその窓の上に取り付けられていること、1250系はロゴマークがプレート式であること、これらが、1250系(1420系)を見分けるひとつのポイントとなっています。ちなみに、1250系以後に投入された車両は、運転室の直後に窓がなかったため、この位置(阪急でいえばHの百合マークが張られている部分の高さの場所、東急でいえば車号が入る高さの場所)に貼られています。また、その後の車両はロゴマークがシール式となっており、これも1250系との相違点となっています。


1250系の使用実績は順調に推移し、その後量産型として1422系が製造されましたが、こちらは1250系とはことなり、やや幅広の車体となり、車体裾が絞られた形状となっています。ちなみに、1250系が1420系に改番されたのは、平成2(1990)年のことでした。


その間にも、近鉄通勤車のVVVF車はどんどん増殖していきました。昭和61(1986)年に登場した東大阪線(※)の7000系は、VVVFインバーター制御を採用し、また同じ年に登場した、京都市営地下鉄に乗り入れる3200系も、VVVFインバーター制御を採用しています。3200系は、近鉄におけるVVVFインバーター制御方式を採用した車両としては、初の量産型といえる系列になりました。

余談ですが、昭和54(1979)年に1編成4両が登場し、現在まで近鉄唯一のステンレスカーとして著名な3000系は、もともとは京都市営地下鉄烏丸線への乗り入れを視野に入れていた車両でした。それが現実に乗り入れるようになったのは3200系。3000系は結局1編成4両のみの激レア車両となっています。


※ 7000系は当初は近鉄の子会社だった「東大阪生駒電鉄」の所有だった。東大阪線開業前に「東大阪生駒電鉄」は近鉄に吸収合併され、7000系も晴れて近鉄所属となっている。


その後さらに、昭和63(1988)年には大阪線・名古屋線の長距離急行用として、団体専用列車への充当も可能とした5200系も、VVVFインバーター制御方式で登場しています。この車両は、長距離輸送・団体輸送とともに通勤輸送にも使用できるようにするため、転換クロスシートを装備しながら3扉車となっています。

この車両の「3扉・転換クロスシート」という仕様は、後にJR各社に登場した311系(東海)や221系(西日本)、811系(九州)などに影響を与えたという指摘もあります。


ところで、大手私鉄の中では、メカマニアとして定評のあった東急や京阪などよりも先んじて、近鉄が一番早くVVVFインバーター制御方式を採用したことになります。その理由については様々なものがあるのでしょうが、やはり路線総延長が長く列車密度の高い区間が多いため、エネルギー効率を抑えるのが目的だったのでしょう。さりとて、当初はVVVFインバーター制御装置のイニシャルコストがべらぼうに高かったことから、特急用車両よりも通勤車の方が省エネルギー効果が高いため、そちらに優先的にVVVF車を導入したのではないかと思われます。

そのことを裏付けると思われるのが、特急用車両では当初従前どおりの抵抗制御を継続して採用していたことです。昭和63(1988)年に鮮烈なデビューを果たし「名阪甲特急」の利用客激増をもたらした21000系「アーバンライナー」は、名阪間130km/h運転を可能としたパワフルな車両ですが、VVVFインバーター制御方式を採用していません。近鉄の特急用車両でVVVFインバーター制御方式を最初に採用したのは、平成4(1992)年に登場した「ACE」こと22000系で、通勤車に後れること8年で、特急車に採用されています。「ACE」登場のころになると、VVVFインバーター制御装置のイニシャルコストも下がってきていましたから、ここで特急にも採用しようということになったのだと思われます。

近鉄はその後、次世代の通勤車を模索した「シリーズ21」を登場させ、もちろんこれにもVVVFインバーター制御方式が採用されています。特急用車両でも、先ほど取り上げた「ACE」22000系以降は、「伊勢志摩ライナー」23000系や「ACE」22600系など、全てVVVFインバーター制御方式となっています。

ただ、近鉄は路線総延長が大手私鉄の中で一番長く、しかもその中には列車密度の高くない線区や区間も多いため、必ずしもVVVF車が有利という区間ばかりでもありません。なぜなら、VVVF車の消費電力量削減の効果は、列車密度の高い区間でこそ顕著になるものですし、またVVVF車に装備している回生ブレーキも、近くに電気を消費してくれる列車がないと無駄になってしまう(回生の失効)からです。そのためか、そのような路線では、在来の車両が依然として活躍を続けています。


近鉄といえば、伊勢神宮の式年遷宮実施をにらみ、新型特急車を投入する計画を今年発表していますが、その車両も当然VVVFインバーター制御方式となることが予想されます。

近鉄はバブル期に行った伊勢志摩の観光開発の当てが外れ、そのため莫大な負債を負ってしまい、そのことがプロ野球からの撤退の一因ともなりました。しかもその後、幹部社員による巨額の横領が発覚するなど、キャッシュフローが思うようにならないとも聞きます。上記の新型特急車は、そのような近鉄の倦んだ状況を打破する起爆剤となるのではないか。そういう期待を抱いてしまいます。


-その12に続く-


※ 当記事は、暫定的に平成24年1月10日付の投稿とします。


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