-その14から続く -
「究極の制御方式」と謳われた、VVVFインバーター制御方式。これによって、摩擦の生じる部分が要らず保守の要らない交流誘導電動機を鉄道車両に搭載することが可能になり、鉄道技術のひとつの到達点となりました。
メンテナンスフリー・省エネルギーの要件を満たし、かつエネルギー効率に優れたこの方式が、すっかり鉄道事業体に膾炙したのも、また当然の結果でした。制御方式自体も、半導体技術の進歩により当初のGTO素子からIGBT素子へ変更され、さらなる進化を遂げた。ここまでが、前回までに述べたところです。
では、それ以上の「省エネ」の技術はないのか。
技術者の飽くなき探求心は、電車を実際に動かすモーター、電動機の採用についても進歩を遂げました。
それまでの電動機は、電車を動かすのに大きな起動力が必要であることから、回転体(回転子)の側を永久磁石ではなく電磁石とし、回転する側と磁力を与える側の両方に電流を流し、運動エネルギーを得ていました。
では、回転する側が永久磁石だったら?
もちろん、回転を与える側に電流を流す必要がなくなりますので、それだけ電力消費量は少なくて済み、エネルギー効率も良くなりますます。
このような、回転を与える側に永久磁石を使用した電動機を「永久磁石同期電動機」といいますが、東京メトロはこの電動機を採用した車両を世に出しました。
もちろん、このような電動機そのものは、以前から存在していましたが、これを鉄道車両に使用するためには、大きな運動エネルギーを得るために、強磁性体が必要でした。これが使用できるようになったことが、鉄道車両への使用の道を開くことになります。
ところで、この永久磁石同期電動機を実際に電車に使用する試みは、東京メトロのみならず、JR東日本でも行われていました。そのため、永久磁石同期電動機を採用した鉄道車両は、東京メトロではなく、JR東日本が先んじて登場させました。
その車両こそ、平成18(2006)年に登場したE331系です。
E331系は、国鉄・JR時代を通じて初めて、通勤用車両に連接構造を採用した車両であり、種々の新機軸を満載して登場した車両として著名ですが、この車両は永久磁石同期電動機とともに車軸直接駆動式(ダイレクトモータードライブ・DDM方式)なる新機軸を採用した車両としても著名です。
車軸直接駆動式とは、それまでの吊り掛けやカルダンなどの駆動方式が主電動機の運動エネルギーを歯車などから伝えていたのに対し、主電動機の回転軸に直に運動エネルギーを伝える駆動方式であり、カルダン方式からまた一段進化した駆動方式でした。
ただし、E331系は、ことほどさように新機軸を盛り込みすぎたためか、未だに試作車が1本だけで、それも稼働率は低くなっています。
余談ですが、車軸直接駆動式は、それ以前にJR東日本が、京葉線の103系を改造して長期にわたる試験を行っていたことがあります。この車両はユニットを構成せず、1両のみのM車として組み込まれたため、編成は10連で7M3Tとなり(103系の10連なら通常のMT比率は6:4)、変則的な編成を組んでいたとして愛好家の注目を集めていました。特に駆動音が他車とまるで異なっていたため、「音鉄」なる録音派の鉄道愛好家からは特に注目されていました。管理人自身はこの車両、鉄道趣味誌で見ただけで、見たことも乗ったこともありませんでしたが。
以上の次第で、JR東日本はあくまで試作車の領域から脱することができなかった。それゆえ、東京メトロこそ、この「永久磁石同期電動機」を本格的に採用した事業体として挙げることができますが、その車両は新製車ではなく、丸ノ内線用の02系更新車でした。
02系は昭和63(1988)年から従来の車両を置き換えるべく、実に56編成333両(方南町支線用を含む)が導入された、東京メトロ最多編成数を誇る車両ですが(車両数だけなら東西線用05系や日比谷線用03系などの方が多い)、初期の第1~19編成はチョッパ制御で登場しています。これらの車両が就役後20年を経過し、更新の時期となったため、東京メトロはこれらの車両のリニューアルに着手しますが、その際制御方式の更新を同時に行い、VVVFインバーター制御方式を採用、加えて永久磁石同期電動機を採用しています。ただし、JR東日本のE331系のようなDDM方式ではなく、通常の歯車を介して運動エネルギーを伝達する方式ですが、これらの車両が、本格的な永久磁石同期電動機採用の第一号となっています。
02系の更新車は、窓下の赤い帯の中に、白い線で波形の模様(サインカーブ)が描かれています。これは、02系投入前の「赤い電車」こと300・400・500・900形が、真っ赤なボディーに白帯を巻き、その白帯の中にステンレスの銀色の波形模様が描かれていたことの再現です。02系ではアルミ無塗装の車体に赤と白の帯が入る出で立ちで、サインカーブが消えたことを惜しむ声が、利用者の中に多かったので、02系更新車では窓下の赤帯の中に復活させたものです。
これも余談ですが、管理人が子供のころの鉄道の絵本には、神田川を渡る赤い丸ノ内線の電車、その上を総武線の黄色い電車、中央線のオレンジの電車が走る姿が描かれていたものです。
リニューアルが完成した最初の編成は、平成21(2009)年に営業運転に入り、02系のVVVF車とも異なる独特のモーター音を響かせ、東京の中心部を走っています。
新製車両として最初に永久磁石同期電動機を搭載したのは、千代田線用16000系が最初です。この車両はいわゆる「日立A-Train」として、メーカーの通勤車の規格に基づいて製造された車両で、副都心線用10000系の流れを汲んでいます。
この車両は千代田線開業以来40年以上の長きにわたり活躍してきた6000系を置き換える車両で、愛好家や利用者から注目されましたが、注目されたのはメカニックよりもその風貌でした。イタリアの高級スポーツカー・フェラーリのデザイナーを起用し、先頭車両は先端部がすぼまった独特の流線型となりました。昨年から順次投入されていますが、最初の5編成が10000系の流れを汲む中央貫通路ですが、第6編成からは貫通路を助士席側にオフセットし、運転台側の窓を拡大しています。
この車両は、先進的なデザインや永久磁石同期電動機を採用した更なる省エネへの探求が評価され、鉄道友の会平成23年度(第51回)ローレル賞を受賞しています。
東京メトロの前身・営団地下鉄が6000系を設計・製造したとき、「40年経っても見劣りしない車両」を作ろうとした話は有名で、実際に6000系もデザイン的な古さをまるで感じさせない素晴らしいデザインですが、16000系もそのような6000系の遺伝子を受け継いでいるのかもしれません。ただ異なるのがラインカラーを示す帯。どうも6000系時代の緑より、かなり明るくなっているような気がします。6000系時代はダークグリーンといえる濃い緑でしたが、今の緑は新緑・若葉の緑に近い感じです。
永久磁石同期電動機の採用で、さらに進化したVVVF車。
最終回は、今後どうなるのかについて考えてみたいと思います。
-その15に続く-