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VVVFインバーター車の歩み その15 進化の究極か、途上か

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その14から続く

回を重ねてきたVVVF車の連載も、今回が最終回。今回は例によって、VVVF車の将来像というものを占ってみたいと思います。

懺悔してしまいますが(というか当ブログをお読みいただいている方にはバレバレですが)、実は管理人は根っからの「文系人間」。直流モーターの仕組みくらいは高校時代の物理で勉強しましたから、そのくらいのことは分かりますが、それ以上となると分かりません。しかし、だからといって嘘は書けない。そこで、管理人自身文献などで勉強しながらの記事作成となりました。専門的な事項については全くの門外漢ゆえ、そのあたりは平にお許しをm(__)m それでもたぶん、間違いや思い違いはゼロではないと思われますので、ご指摘いただければ幸甚に存じます。

前々から述べていますが、メンテナンスフリーの交流誘導電動機を鉄道車両に使用するのは、古くからの鉄道技術者の夢でした。確かに、過去には交流誘導電動機を採用した鉄道車両の例も皆無ではなかったものの、安定した・使いやすいシステムとは必ずしもいえないものでした。それが、半導体技術の長足の進歩によって、安定したシステムが構築され、しかも半導体素子も黎明期のGTO素子から、スイッチング回路の不要なIGBT素子へと進化を遂げています。電動機もそれまでの磁力・運動側いずれにも電流を通す従来の形態ではなく、運動側を強磁性体の永久磁石とした永久磁石同期電動機が採用されるに至り、より省エネルギー化が図られています。
このような「技術の進歩」も、もはや行き着くところまで行き着いてしまった観も無きにしも非ずですが、では新たな展開はないのか? 今回はそのことを述べてみたいと思います。

VVVF車に搭載する交流誘導電動機は、直流電動機のような整流子がないので、その部分もコア(鉄心)にでき、最大寸法が同じでもその分だけ出力が大きくなります。また、直流電動機の場合はブラシと整流子の機械的強度に制約されるのに対し、交流誘導電動機にはその制約が無く、同じ大きさでも最高回転数を高くとれることになります。
この特色を生かし、大出力の電動機を搭載してMT比率を減らした車両や(JR西日本の223系や小田急30000形など)、逆に全ての車両を電動車にして「1輪1電動機」ではない方法をとる車両もあります(JR西日本321系や東京メトロ1000系など)。
ところで、交流誘導電動機は、直流電動機と最大寸法が同じでも出力も回転数も大きくなりますから、出力が同じで良ければ、その分電動機を小型化することができるようになります。この特性は、低床構造が要求される路面電車やナローゲージ路線などに適しているといえます。現在いわゆるナローゲージで残っているのが近鉄の内部・八王子線や三岐鉄道に移管された北勢線がありますが、これらの路線にも小型の交流誘導電動機を備えた新車が登場する可能性もあります。ちなみに、VVVFインバーター制御方式とは、主電動機をどう制御するかという「制御方式」であり、「駆動方式」が吊り掛けかカルダンかを問いませんから、「吊り掛けのVVVF車」が近鉄の特殊狭軌線で見られるかもしれません。もっとも、「吊り掛けのVVVF車」そのものは、電気機関車には存在します(EF510形など)。

また、VVVFインバーター制御方式の利点を生かした展開として、電車以外への展開も期待されます。
既に平成4(1992)年から、VVVFインバーター制御方式を採用した電気式ディーゼル機関車・DF200が登場、北海道地区に投入されています。電気式は国鉄時代のDF50以来、実に半世紀ぶりの復活となりましたが、これを可能にしたのはインバーター技術の進歩により発電機の高効率化が図られたこと、発電装置・駆動装置の軽量化により、それまでの電気式の欠点とされてきた「車両重量の重さ」が克服できたことが挙げられます。
気動車の世界でも、エンジンで発電機を回し、VVVFインバーター制御によって交流誘導電動機を駆動して走るハイブリッドディーゼル車が登場しています。
日本では、昭和28(1953)年のキハ17系以来、キハE200が登場するまで、一部の地方私鉄用を除いて液体式の気動車を生産してきましたが、最近はハイブリッドディーゼル車も増えているようで、新たな展開が予想されます。以前に気動車特急の連載の最後で言いましたように、電化区間ではパンタグラフで集電して電動機を回して走行、非電化区間ではディーゼルエンジンで発電して走行という、本当の意味での「ハイブリッド車」が世に出ることはあるのでしょうか。

以下は「文系人間」の管理人が、前々から抱いていた素朴な疑問。
交流電化区間で使用するVVVFインバーター制御の車両は、新幹線も含めて、全ての車両が架線の交流電源を一旦整流器で直流化し、その後インバーターで三相交流を作り出しています。なぜこんな面倒臭いことをするのか、疑問でなりません。もしも架線の交流電源を直に三相交流に変換できて、なおかつ電圧も周波数も自由にコントロールできたら、整流器が要らなくなり、その分軽量化に役立つのではないか? と。
実は、交流電源で交流電動機を動かせばいいという発想は交流電化の初期にもあって、昭和34(1959)年、架線の交流電源で直に交流電動機を駆動させる「直接式」といわれる方式(クモヤ791。こちらは誘導電動機ではなく交流整流子電動機だった)の車両が登場しています。この方式は、交流整流子電動機の保守が大変だったことや、半導体技術の発達で、交流電源を直流化して直流電動機を駆動させる「間接式」が有利となり、直接式は廃れてしまいました。
現在の問題は、単相交流(架線から取るのは在来線も新幹線もこれ。違うのは50Hzか60Hzかの周波数だけ)から直に三相交流を作ることができるのかですが、恐らく技術的には可能なのだろうと思います。
ただ、新幹線用にシステムの研究をしていた国鉄自身、晩年は労使対立と巨額債務で思うに任せない状態でしたから、そのあたりの研究が滞ったまま、新幹線300系やJR北海道785系のような車両が世に出てしまったのかもしれません。そして、VVVFインバーター制御方式が爆発的に普及する中で、直流車用のシステムを丸ごと転用した方がコストが安くて済む、という判断もあったのかもしれません。
かつて、列車密度の低い地方幹線や高速運転を行う新幹線には交流電化が有利とされましたが、VVVFインバーター制御方式の普及により、直流電化の方が高速化などには有利となり、交流電化の優位性は失われたといわれます。しかし、もし単相交流を三相交流に自在に変換するシステムが開発されたとしたら、そのときには交流電車、特に新幹線について劇的なブレイクスルーが実現するかもしれません。

何だか最後は締まらない展開になってしまいました。
ただ、長年の鉄道技術者の夢が、半導体技術の長足の進歩によって可能になった。さらなる進化によって、さらにエネルギー効率の良いシステムとして確立した。現在では、路面電車など一部の特殊用途の車両を除き、新たに製造される電車はほぼ100%がVVVFインバーター制御方式となった。これらの事実により、VVVFインバーター制御が「究極の制御方式」といわれるゆえんの一端くらいは、触れられたのだろうと思います。
それでは、今回の連載はこれにて終了。2012年度もネタを考えておりますので、どうぞお楽しみに。

-完-

※ 当記事は暫定的に平成24年1月19日付の投稿とします。


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