「8連化前夜の〇〇」のシリーズ記事の途中ですが、訃報が入って来ましたのでこちらを優先いたします。
この人の大きな功績は、「トラベルミステリー」を推理小説の1ジャンルとして確固たる地位を築いたこと。きっかけは当時の寝台特急はやぶさを題材にした「寝台特急殺人事件」。その後様々な列車・路線を取り上げ、鉄道愛好家や旅行愛好家がこぞって愛読しました。かくいう管理人も、「終着駅殺人事件」など何作か読んだことがあります。勿論映像化された作品も数多く、こちらも1ジャンルを築いた「2時間ドラマ」「サスペンスドラマ」で多数ドラマ化されています。ドラマ化された作品は、今でも民放のBSチャンネルで再放送されることがあります。
ただ、氏は存命のころ、既に「トラベルミステリーは成り立たなくなりつつある」と述べていました(どこかのインタビュー記事を管理人が読んだことがある)。原因は勿論、スマホの普及に伴うインターネットへのアクセスの容易化。特に携帯電話・スマホの時刻・乗換案内などでは、かなり複雑なルートでも検索出来てしまいます。また携帯電話さえ持っていれば、「別離」の概念はほぼ「死別」のみになります(これは『世界の中心で愛を叫ぶ』が制作された際に指摘されていた)。これらの社会インフラの急激な変化、それに伴う読者の側の意識の変化により、時刻表を駆使したトリック自体が成り立ちにくくなってきたのは事実でしょう。
いや、それでも時代に即したトリックは考えられるし、逆にスマホやインターネットを駆使したトリックもあり得るという反論もありそうですが、それは果たして「トラベルミステリー」といえるのかという疑問もなくはなく。
そしてそれよりも大きな理由と思われるのが、キヨスクなど駅売店の相次ぐ閉店・コンビニエンスストア化により、「列車内で暇つぶしに本を読む」人が減ったこと。つまり読書人口の減少ですが、これはどうしようもありません。
ともあれ、一時代、ひとつのジャンルを築いた金字塔は色褪せるものではないでしょう。合掌。