Quantcast
Channel: さすらい館
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4315

3174.鉄路の「バブルの帝王」列伝 その5 グリーン車の豪華仕様化③~JR西日本マリンライナー

$
0
0

グリーン車の豪華仕様化、3例目は「マリンライナー」用213系を取り上げます。
213系は、国鉄最末期の昭和62(1987)年3月に、当時岡山-宇野間に運転されていた、新幹線と宇高連絡船とをつなぐ快速列車に投入されました。それまでの115系の重厚な構成車体・3扉セミクロス車から、軽快な軽量ステンレス製の2扉転換クロスシート車になり、大幅な居住性の向上が図られました。また同時に、115系時代にはなかった指定席車を連結するようになり、指定券発券の都合上列車名が必要となったため、それまで名無しの快速だったものが、ここで「備讃ライナー」と命名されています。

JR発足後瀬戸大橋開通前までは、この体制で推移したのですが、瀬戸大橋開業が間近になって来ると、橋から見える瀬戸内海の景観を観光資源として集客しようという発想が出て来始めます。
そこでJR西日本は、国鉄から承継した213系電車について、瀬戸大橋開業後も岡山-高松間の快速列車に使用する予定でしたが、普通車だけというこれまでの編成に、新たにグリーン車を加えることを決定しました。
そのような発想に基づいて、展望グリーン車・クロ212がつくられました。
このクロ212は、

・床面を高くしたハイデッカー構造とする。
・窓は大きく取り、屋根のカーブにまでかかるほど大型化。
・座席はリクライニングシートだが、窓に向けて設置することも可能にする。

という車両でした。
このクロ212は4両が用意され、213系快速列車の高松方先頭に連結されることになりました。それと同時に列車名も「備讃ライナー」から「マリンライナー」へと変更し、早朝4時台から深夜0時台まで、頻繁に運転されるダイヤが組まれています。流石に早朝・深夜の列車については、グリーン車や指定席車を連結しない列車もありましたが。

クロ212で特筆すべきは、これと類似の車体を備えた車両で3連を作り、所謂ジョイフルトレインとして就役させたことです。このジョイフルトレインは「スーパーサルーンゆめじ」と命名され、3両で団体列車や臨時列車に使用されることが想定されていましたが、同時にこの3両をばらして213系に組み入れ、快速「マリンライナー」のグリーン車としても使用できるように考えられていました。
瀬戸大橋開業直後の時刻表の編成表には、高松方の1両だけではなく(これが基本)、それに加えて岡山方の2両もグリーン車という、グリーン車を3両連結する、東海道線東京口も真っ青の超豪華普通列車(『マリンライナー』は快速だが、快速は国鉄~JRでは普通列車の一種)が出現しています。ちなみにこの「スーパーサルーンゆめじ」、高松方のTsc車の形式はクロ212ですが、岡山方のM車ユニットはモロ210とクモロ211でした。つまりTsc車だけが213系、M車ユニットは211系という車両でした。これは別に奇異でも何でもなく、211系と213系はMM’ユニット方式か1M方式かの違いだけで混結が可能ということです。213系の1M式は、211系の横須賀線投入を想定し、基本11連でM車比率が小さくなり過ぎないように、考えられた方式ですから。その考えが、横須賀線ではなく瀬戸大橋線で生かされたのが面白いですね。
なお、クロ212も「スーパーサルーンゆめじ」も、窓を天井のカーブ部分まで大きく取ったためか、車体はステンレスではなく普通鋼製とされ、いずれも白ベースの塗装、213系に組み込まれたクロ212は1両ごとに帯色を変え、「スーパーサルーンゆめじ」はピンクとブルーの帯を入れていました。いずれもパステル調の、国鉄時代にはなかったお洒落な色使いが印象的でした。

勿論、この「パノラマグリーン車」は大好評を博し、「マリンライナー」は指定席がグリーン車から埋まっていくという活況を呈しました。やがて、乗客へのサービスということなのか、岡山・高松の両端の駅に据え付けられる際、最初からグリーン車の座席は窓を向けてセットするようになり、ますます人気が上がっています。

しかし、バブルの崩壊とともに、「マリンライナー」の乗客数にも陰りが見え始めます。
特にグリーン車の利用率が落ち、また残ったグリーン車の乗客も、観光客が減ってビジネス・用務の乗客が増え、そのような乗客に対し、窓に向けた座席のセットが必ずしも適切なサービスとはいえなくなったため、窓に向けた座席のセットは取り止められました。
そして、毎日瀬戸大橋を渡るという運用は、思った以上の車両の老朽化の進行をもたらしてしまいます。考えてみればそれも当たり前の話で、瀬戸大橋はそのほとんどが海の真上を走るルート。ということは、塩害を受けやすいということでもあります。そのせいで、特に鋼製車体のクロ212は、急激に老朽化が進行していきました。
そのため、就役からちょうど15年経過した平成15(2003)年、クロ212はJR四国が投入した5000系車両に置き換えられ、「マリンライナー」の運用を離脱しました。同時に、213系も「マリンライナー」運用を離脱、こちらは車体がステンレス製で塩害の影響も小さかったため、岡山地区のローカル輸送に転用され、一部は中間車を先頭車に改造したり、ワンマン運転対応機器を搭載したりして活躍を続けています。
他方、「スーパーサルーンゆめじ」は、平成15年以降も団体用として運用されていましたが、平成22(2010)年に惜しまれつつ退役しています。

現在の5000系車両は、先頭車でありながら2階建ての5100形が2階と先頭部のパノラマ席をグリーン車相当、1階と車端部を普通車相当(車端部の席はバリアフリーに対応)とし、グリーン車・指定席車の需要に応え、かつバリアフリーの要請にも応えています。
この5100形は、JR東日本E217系の2階建てグリーン車の構体の設計を流用し、それに先頭部の運転台を加えたものです。グリーン席が2階と先頭部にありますので、先代のクロ212形の眺望は確保されていますが、クロ212形と比べれば、実用的な車両になってしまったことは否めません。
それでも5000系は、5100形の眺望などが評価され、第47回(平成16年・2004年)の鉄道友の会ブルーリボン賞受賞という栄誉に浴しています。

現在は5000系と、JR西日本が製造した223系5000番代で3~5連を組んで運転されている「マリンライナー」。最近は乗客減も囁かれていますが、この列車のお陰で香川県内から岡山の高校・大学へ通学できるようになり、下宿が必要なくなったという恩恵もあったとか。そのため、通勤・通学客の利用もあるとのこと。
岡山と高松を結ぶ気軽な足として、これからも活躍が続くのでしょう。

次回はバブル期の車両のもうひとつの特徴「2階建て車両の採用」という面で特筆される、小田急20000形とJR東海371系を取り上げます。

-その6に続く-

Viewing all articles
Browse latest Browse all 4315

Trending Articles