(写真と本文とは関係ありません。またこの写真は、以前の記事からの転載です)
先日、速報版ではありますが、昨年平成27(2015)年度の都営交通の決算が発表されました。
詳細はリンク先をクリックしてご覧いただきたいのですが、都営交通といえば、当然のことながら地下鉄、バス、都電、新交通(日暮里・舎人ライナー)を包含します。
しかしこのたび、都交通局は同時に、都営バスの路線(系統)別の営業収支を発表しています。このようなデータの発表は、何でも平成4(1992)年か5(1993)年に発表して以来のことだそうですから、実に約四半世紀ぶりの発表ということになります。その間には、平成12(2000)年の都営大江戸線全線開業に伴う大リストラがありましたが、それを乗り越えた各系統の収支は、いかなるものなのでしょうか。
都営バス系統別営業収支(PDFファイル注意)
詳細はこれも、リンク先をクリックしてご覧いただきたいのですが、各系統ごとの営業係数が発表されています。営業係数とは、100円の売り上げを得るためにいくらの経費がかかっているかを示す数字で、営業係数をXとすると、X<100であれば黒字路線、逆に、X>100であれば赤字路線となります。
この営業係数、国鉄時代の路線ごとの収支の発表にはしばしば使われ、最も優秀だったのが山手線で、ワーストは北海道のローカル線でした。その中でも、今はなき美幸線などは、営業係数が3000を超え、「日本一の赤字線」と銘打って、沿線自治体が半ばやけくそのような宣伝をしていたことすらあります。
さてここで、皆様にお聞きしたいのですが、数多ある都営バスの路線の中で、最も営業収支の優秀な路線はどれでしょうか?
グリーンシャトルこと都01?
日中でも頻度の高い王40?
下町を走る都08?
…正解はそのどれでもなく、何と、品川区の港湾部を走る「品99」。営業係数は、何と驚くなかれ驚愕の63! これがぶっちぎりのトップです。
トップとなる要因としては、この路線は沿線に東京入国管理局(入管)があるため、現金での乗客が多いこと、昨今の在留外国人の多さを反映して外国人の利用客が多いことなどが挙げられるかと思います。
ちなみに、「都01」は営業係数90で、黒字は黒字でも意外に黒字幅が少ない印象があります。「都08」も96で、何とか黒字というレベル。それでも、都市新バスは「都03」の他は、「都05」が収支トントンの100、その他は軒並み黒字となっています。都市新バスの中では、何といっても「都02」の健闘が光っています(92)。路線の多くが都営大江戸線と並行していてこれですから。
意外だったのが、「王40」の営業係数が102と、僅かに赤字であること。運賃収入はこの系統がトップであり、しかも他には「都01」「都02」「都07」しかない、運賃収入100万円超えを果たしている「四天王」の一角。しかし、それでも収支という面で見ると、この3系統ほどはよろしくない。これは、西新井-王子又は池袋を通しで利用する乗客が多いことが伺えます。その他、乗客が多いのに収支がそれほど良くない系統は「草39」とか「草64」、「王49」などがあり、これらの系統も利用者の乗車距離が長い傾向が伺えます。その他、運転本数が多い区間の利用が多いのに、都心部の閑散区間に足を引っ張られていると思われるのが「東42」「東43」。もしかしたらこの両系統は、都心部のカットが行われてもおかしくないかもしれません。あとは、鳴り物入りで登場した「夢の下町」こと「S-1」は153。専用車まで用意した都交通局の力の入れようは相当なものでしたが、収支という面ではあまりいい成績ではありません。あるいはこのような路線は、シルバーパスや1日乗車券などでの利用が多いからかもしれませんが。
それでは営業係数の悪い路線はどうかといいますと、青梅の路線は「梅77」が100台である以外は軒並み200台ですが、これは沿線の福祉の面もあり、補助金による支援もあるのでおいといて、問題は青梅以外の23区の方。
23区だと、日暮里・舎人ライナーに完全並行する「里48」が272とダントツですが、これは日暮里・舎人ライナーのいざというときの代替交通機関という面もあり、大赤字であっても維持する必要のある路線であると、都交通局は考えているようです。だからこそ巣鴨・南千住・北と3営業所の共管になっているのでしょうし。
「里48」を下回るものの、実質的なワースト路線は「田99」の260。この路線は港区の海側を走る路線で、最近では港区のコミュニティバス「ちぃバス」にシェアを蚕食されているようです。
そしてもうひとつの営業係数200超えは、都営バス一般路線最東端・篠崎駅へ達する「船28」。この路線は以前に管理人も乗車したことがありますが、江戸川区の東側、都営新宿線の駅から離れたエリアを結ぶ路線です。しかし運転本数・利用者数とも多くなく、存続しているのが不思議なくらいの路線です。一説には毎年夏の江戸川の花火大会輸送のため、路線免許維持のために残しているという話もありますが、真偽のほどは分かりません。
…とこのように、つぶさに見ていくと色々と見えて来るものがあるのですが、そもそも都営バスは公営交通ですから、民営バスとの違い、すなわち公共交通として、営利性・収益性だけでは測ることのできない意義を有する路線を維持する使命もあり(これは青梅地区の路線に顕著)、営業係数だけで路線の重要性を測ることはできませんし、すべきではないと考えます。
それでも、意外な路線の意外な収支が明らかになるのは、趣味的見地からすると面白いものですね。