かつては旅客輸送のみならず、貨物輸送も隆盛を極めた近江鉄道。その貨物列車の牽引には、「歴戦の強者」である古典電機が任に当たっていました。
しかしその貨物輸送廃止後は、一部の罐がJRで言うところの「工臨」、あるいは冬季の除雪用などに時折使われるほかは、彦根駅構内の「近江鉄道ミュージアム」で保存されてきました。その後「工臨」用の罐も使われなくなり(そのような列車の牽引は220形電車に取って代わられた)、現在は稼働状態を維持する罐も、本線走行をしない「動態保存機」としての色合いが濃くなっていました。
そんなわけで、近江鉄道の古典電機たちも「保存機」という形で生き永らえてきたのですが、このたび、こんなショッキングなニュースが駆け巡りました。
以下引用開始
県内で鉄道、バスなどを運行する近江鉄道(彦根市)が、鉄道経営を同社単独で維持することが将来的に困難になるという見通しを、沿線の自治体に伝えていることが分かった。赤字が続いている上に設備の老朽化で維持コストが増すためで、存続に向けた協議の場を設けるよう各機関に呼び掛ける。
同社の鉄道事業は一九九〇年代中ごろから赤字に転落。二〇一六年度には赤字額が経費の約二割に当たる三億円を超え、バス事業などの黒字で穴埋めしている。年間の輸送人員は四百万~五百万人の水準を維持しているが、今後は老朽化したレールや車両の更新が重なる。このため設備投資は今の一・五倍に増える試算で、収支の改善は難しいという。(後略)
以上引用終了
(中日新聞Chunichi WEBより)
地方の鉄道はどこも苦しいものですが、近江鉄道もその例に漏れず、経営はなかなかに厳しかったようです。現在はそれなりの乗客数を確保できているものの、今後の老朽化した設備の更新が必要で、それが経営を大いに圧迫するということのようです。
管理人は8年前に日帰りで近江鉄道を乗り歩きましたが、確かに一部では「これは維持が大変だろうな…」と思った区間があったのは事実です。やはり、少子高齢化に伴う通学生の減少が響いているのでしょうか。
このような話をし始めると、管理人が常々申し上げている「鉄道という福祉・国防に必要不可欠な社会インフラを、民間企業に任せておくだけでいいのか」という議論になってしまいますが、今回の記事で取り上げたいポイントは、実はそこではありません。
近江鉄道では、古典電機の維持・管理が経営を圧迫しているとして、これら古典電機を解体することを決定し、去る16日には「最後の撮影会」が開催されたとのことです(出典:相互リンク先の『地味鉄庵』の該当記事)。
管理人も8年前に撮影していますので、今回はこれらの写真をアップすることにします。
古色蒼然たるED31
ED31は国有鉄道制式の電機ではなく、伊那電気鉄道(現在の飯田線の前身)のデキ1型として製造されたもので、伊那電気鉄道が国に買収されたため、「ED31」という国有鉄道式の形式が付与されたものです。製造年は大正12(1923)年といいますから、何と御年94歳!(撮影時は86歳)
しかし、現在は流石に本線に出ることはないようです。
こちらは、4機が現存する(車籍を有するのは2機だけ)ED14。
このときは1機だけ国鉄仕様に復元されていた
この4号機、何と車籍を有しているようです。
4機全機が残っているが…。
このED14は、米国GE(ジェネラルエレクトリック)社製の輸入電機です。現在、現存する4機とも全て近江鉄道におりますが、同社が解体を発表したことで、彼らの命運も尽きたのでは…と思われます(実際には、近江鉄道では引き取りを希望する人に対しては、輸送費その他経費を負担することを条件に無償譲渡に応じるとのこと)。
しかし、これらの古典電機、産業遺産としての価値もあるはずで、安易な解体は甚だ疑問です。まして、ED14など今やGEの作った電気機関車など殆ど残っていないであろうと思われる現在、日本で解体されるくらいであれば、同社に返還・寄贈してもいいのではないかとすら思います。
勿論、近江鉄道が今回の決断に至ったのは、ひとえに経営判断であり、そのことを当記事で論うつもりはありません。
それでも、近江鉄道がなぜこのような結論を下さざるを得なくなったかについては、原因を指摘することはできます。それは、日本国においては産業遺産というか工業・機械遺産に対する理解がまだまだ低いこと。そしてもうひとつ、このことが最大の理由ではないかと思われるのですが、このような保存車両について、「遊休資産」とみなして課税対象にする税制。これでは、保存車両として活用しようとしても、遊休資産として課税されるのでは、その負担を嫌って解体しようと考えるのも当たり前のことです。企業ですから。したがって、このような企業による産業遺産の保存ということを積極的にさせたいのであれば、車籍の無くなった車両に関しては、税制を見直すしかないのではないかと思います。同じような問題は自動車にもあるといわれていて、古い車を保有するオーナーの場合、自動車税が高額になるという問題もあるとのこと。
…でも財務省はやらないだろうな(´・ω・`)
とにかく、道路は公的資金で作る一方、鉄道はどこまでも自助努力を求めるという、同じ不可欠な社会インフラでありながら、全く正反対な国や自治体の対応が問題なんですよ…ということで。
あら(^_^;) 結局そこに行ってしまったか。
これを掘り下げると、連載記事にしても1年でも終わらないのは確実ですし、鉄道趣味の域を超えてしまいますので、このくらいにしておきます。
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※ 当記事で使用した写真は、全て以前の記事からの転載です。