-その14(№4973.)から続く-
ステンレスカーの進歩を取り上げた本連載も、今回と次回でいよいよ終了となります。
そこで、今回と次回は、いわば「最終回スペシャル」として、ステンレスカーの今後について論じてみたいと思いますので、よろしくお付き合いのほどを。
なお余談ですが、当記事のアップにより記事数が5000となります。まだブログナンバーは記事数に20足りませんが、それでもこの「5000」という数字は、管理人にとっては節目であることは変わりなく、明日のブログ開設記念日を前に、感慨深いものがあります。
では本題。
今回は、「ステンレスカーの導入実績のない大手私鉄への導入はあるか?」ということを取り上げます。
「ステンレスカーの導入実績のない大手私鉄」といえば、阪急と京阪が真っ先に頭に浮かびます。近鉄もかつて、昭和54(1979)年に3000系4両だけを導入したことがありますが、近鉄ではこの4両以外にはステンレスカーは増殖することはなく、4両のまま平成24(2012)年に退役していますので、近鉄も事実上、「ステンレスカーの導入実績のない大手私鉄」に含めていいのだろうと思います。
ここで、大手私鉄のステンレスカー導入年次の早い順に見てみましょう。()は導入初年ですが、わかりやすくするため西暦表記にしています。
1 東急(1958) 5200系
2 阪神(1959)※① 5201形の一部
3 メトロ(1961)※② 3000系
4 南海(1962) 6000系
5 京王(1962) 3000系
6 京成(1972) 3500形
7 近鉄(1979)※③ 3000系
8 東武(1981) 9000系
9 小田急(1988) 1000形
10 西武(1991) 6000系
11 相鉄(2002) 10000系
12 名鉄(2002) 300系
13 西鉄(2005) 3000形
14 京急(2006) 1000形第17次車
(参考 国鉄 205系の本格導入は1985年)
※①=この時導入された車両は昭和52(1977)年に退役、その後9000系が平成8(1996)年に導入されるまでステンレス車の在籍はゼロだった
※②=前身の営団地下鉄時代。3000系が昭和36(1961)年、5000系が昭和39(1964)年にそれぞれ導入されているが、その後の増備はアルミ車に移行し、ステンレス車の導入はしていない。ステンレス車自体、5000系が千代田線北綾瀬支線の運用から退いた平成26(2014)年をもって、全車退役している。
※③=本文記載のとおり、近鉄でのステンレス車は3000系4連1本のみの導入だった。
近畿車輛の独自技術で製造された3000系を導入した近鉄を除けば、1番目から6番目までは、スキンステンレス車かステンレス車第1世代、1980年代に導入した4社はステンレス車第2世代からの導入となっています。11番目の相鉄以降は第3世代からの導入。特に初期にオールステンレス車第1世代を導入した東急・京王・南海はいずれも1960年代初頭となっていますが、このころには追随する大手私鉄はありませんでした。このころはステンレス車両自体が高価であり、それ故にいくら塗装不要のメリットがあったとしても、二の足を踏んでいたものと思われます。また米国バッド社の特許との関係で、事実上東急車輛製造(当時。以下同じ)にしか発注できないのも、大きな要因だったと思われます。しかしそれにしては、関西の南海が東急車輛製造に6000系を発注した経緯は不思議です。なぜ南海が関西私鉄でありながら東急車輛製造に自社車両を作らせているかといえば、南海沿線にかつてあった帝國車輛製造が東急と合併したからですが、その合併は6000系の初登場より後の昭和43(1968)年。そうまでしてステンレス車を導入したのは何故なのか? 理由が知りたいものです。
東武が9000系を導入したのは、東急車輛製造(当時)が軽量ステンレス構造の車体の製造技術を確立し、米国バッド社に自社の特許とは無関係であることを認めたことが大きかったと思われます。これによって東急車輛以外でも軽量ステンレス構造の車体を製造することが可能になったからです。さらに、国鉄205系製造に際し軽量ステンレス構造の車体製造のノウハウが同業他社に公開されたことも、その後の普及を後押ししているといえます。
11番目の相鉄以下は、21世紀になってからの登場です。相鉄では10000系導入がステンレス車の初導入となっていますが、これはJR東日本のE231系の完全な兄弟車であり、新車投入にもかかわらず大幅なコストダウンが実現したことで、ステンレス車導入に舵を切ったものと思われます。12番目の名鉄以下は、無塗装化による塗装工程の合理化と、軽量化のメリットが導入を後押ししたのではなかろうかと。
さて、前回ステンレス車のデメリットについても触れました。そのデメリットとは無塗装ゆえの無機質感、個性のなさ。恐らく、現在導入していない阪急と京阪、あるいは21世紀まで導入しなかった名鉄と西鉄には、そのデメリットが大きなものとして考えられていたのではないかと。京急の例でも言及しましたが、車両がその会社のイメージを担う「商品」であることからすると、他社との差別化は必須です。京急1000形がラッピングから塗装に移行したり、ステンレス車であるにもかかわらず南海1000系や相鉄12000系などが塗装を施したりしているのは、まさにそのような考慮の結果でしょう。
それならラッピングで再現すればいい、第4世代「Sustina」であれば車体が平滑だから無問題…とも思いますが、しかしやはり、京急1000形第17次車のところで言及したとおり、窓周りや乗務員扉の周りなど、どうしてもラッピングでは対処しきれない箇所が発生してしまいます。そうすると、ラッピングも案外万能ではありません。
そう考えてくると、現在までステンレス車を導入したことがない大手私鉄3社(近鉄も含む)は、今後の導入も「ない」とみるべきでしょう。近鉄は自社傘下に鉄道車両の製造会社を持っていて、しかもそこはアルミ車体の製造実績があるので、わざわざ他社にステンレス車を発注するとは思えません。阪急は…近鉄以上に「ない」でしょうね。あの会社は、マルーンの外部色を変えようとしたら、愛好家のみならず沿線住民から囂々たる反対の声が巻き起こったそうですから。仮にラッピングでマルーンを表現するとしても、扉や窓枠の周囲はラッピングができませんから、やはり塗装が望まれ、そうなるとステンレス車は導入が困難、となってしまいます。あるとしたら京阪ですが、やはり無塗装が企業イメージに与える影響からと、これまで導入していないことを考えると、やはり望み薄ではなかろうかと思います。
次回は最終回。
ステンレス車の可能性を探る企画として、「ステンレスカーの新幹線は可能か」を大真面目に論じてみたいと思います。
-その16に続く-